[〖非常友情〗] [115][自录][日文][木原音瀬／やまかみ梨由]恋愛時間

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『食方が好きです』
「僕のアパ丨トはこの道をまっすぐ行って、向こうにある電柱を左に曲がった所です。有田さん はあそこのマンションなんですか。僕たち随分近くに住んでたんですね」
緣なしの眼鏡の奥の瞳を少しだけ細めて、後輩は嬉しそうに笑った。ただでさえそう大きくな い目が、笑、7と糸みたいに細くなった。一緒の駅で電車を降り、帰り道の方向が同じだとい、っの で並んで歩いた。昼間から天気が悪く、雲が出ていたせいで空には星の一つも見えず、街灯だけ が湿気を帯びた冷たい空気の中で、ぼんやりと光つていた。
冬の気配が漂いはじめた十月の終わり、ブル丨グレィのス丨ッに身を包み、一九〇センチはあ りそうな高すぎる身長を、持て余すように背を丸め歩いていた後輩は、ふうっとため息をついた。 整えられた硬く癖のない髮が耳元に一筋落ちる。大きな耳たぶが、寒さのせいか酔いの名残かう っすらと色づいていた。
「結構寒いですよね。今年の冬は去年と比べて随分寒くなるそうですよ」 「へえ、そ、フなのか」
首筋を掠めた、思いのほか冷たい風に有田学はひよいと肩を竦めた。有田よりも十センチ以
5恋愛時闻
上背の高い後裴も同じように肩を竦めている。
ばらばらと額に落ちかかってくる髮が邪魔で有田は手櫛で乱暴に搔き上げた。カットするのが 面倒で放っているうちにのびすぎた前髮。恋人がいた頃はそれでもまめに手入れをしていたが、 去年の复に別れてからは身だしなみにも手を抜きがちだった。
同じ部署で三年目になる女の子が結婚退職することになり、今日はその送別会があった。二次 会はカラオケだと闖き、歌の下手な有田は一次会だけで『やり残した仕事があるから』と適当な 理由をつけて抜け出した。それに便乗するようについてきたのが後^の広瀬明弘だった。
有田よりも11つ下だから広瀬は今年11十八歳になる。手取り足取り仕事を教えてやっていた頃 からもう六年も経ったのかと思うと、有田は時間の流れの速さを感じずにはいられなかつた。
広瀬が入社してきた当初は、部署も今ほど大きくなく、営業が会計も事務も兼ねているような 状態で、仕事を専門的に分担していなかった。有田は営業が主だが、なぜか事務が専門の広瀬の 教育に指名され、マンツ丨マンで仕事を教えた。広瀬は素直な(xing)格の真面目な男で、言葉数は少 ないけれど、言うべき時にはきちんとものが言える、最近では珍しいできた後辈だった。
広瀬と同時期に入社してきた新人社員は三人いたが、その中でも広瀬は一番要領が悪く、加え てのんびりした風貌に似合わない、きっちりとした(xing)格をしていた。手抜きという言葉を知らな い後輩に、適当にやれと言う気もなかつたがもう少し上手く立ち回れないものかと、有田は一人
でやきもきした。
けれど時間をかけるぶん、それだけのものを広瀬はきちんと作り上げてくる。結果的にはいい 加滅にどんどん仕事をこなしてきたどの社員より信頼された。
最初の,.ニ年はよく話をした。けれど途中で会社の体制が変わり事務と営業に分かれ、使っ ている部屋は同じでも直属の上司が代わった。部署も仕事の内容も異なると、関わることも少な くなり自然と話をしなくなっていた。
入社三年目で広瀬は地方の子会社に転勤になり、今年の七月に戻ってきていた。広瀬が帰って きた時、昔と変わらないのんびりとした雰囲気に、有能だけどとにかく仕事が遅いことを知って いる有田は『大丈夫なんだろうか.！と思ったものだが、そんな心配をよそに広瀬はすぐもとの仕 事に、職場に馴染んでいった。
ぼつぼつ、社交辞令のようにあたりさわりのない世間話をしながら、気がつぐとすぐそこに自 分みマンションが見えていた。路地へ入る曲がり角の手前で『じゃ、また明日』そう言った有田 を、あの…と遠慮がちに広瀬は引き止めた。 「僕、酔ってませんから.！
しっかりした足取りの、はっきりとした口調。明快な会話。広瀬が酔っているようにはとても 思えなかつた。
「酔つぱらいには見えないよ」
突然何を言い出すのかと首を傾げた有田に、気まずそうに目を伏せていた広瀬は、すつと顔を 上げた。
「食方が好きです」
何が好き、とも誰が好きとも聞き返せない、明確な言葉。内心、有田は『まずれ」と思つた々 お互いに向き合つたままで、有田は広瀬の真剣な眼差しを見てしまつているし、冗談にして笑い 飛ばすこと.も、聞こえなかフた振りで間き流して.し.まうことも-できない。言葉もなく立ちづくすタ 広瀬は返事を待つように、生真面目な顔で有田をじつと見つめていた。 「お前は…」
「それじゃ、おやすみなきい』
有田がようやく絞り出した言葉に重なる声。広瀬ははにかんだように笑、7と、軽く頭を下げ、 有田に背を向け歩きだした。お前は男じゃないか、そんな当たり前の反論を閜く前に、さつさと 行つてしま、"?。呆気にとられていた有田は、その背中が角を曲がり視界から消えてしまつてから、 思い出したように猛烈に腹が立つた。 | 「何なんだ、あいつはつ』 練
吐き捨て、腹立ち紛れ、有田は右手にあった電柱をかかとで思いきり蹴り上げた。 7
マンションに帰り着いてからも、有田の不愉快な腹の虫はおさまらなかつた。何が悲しくて三 十も近いいい歳になって、男から1好きだ』などと夂ロ自されなくてはいけないのだろうか。
乱暴にス丨ツを脱ぎ捨て、   ***下载/download/otomedream/ダウンロード***   のまま   ***下载/download/otomedream/ダウンロード***   所の銪の前に立った有田は、鏡に映る自分の姿をじっ と黽き込んだ。
整えていた髮が崩れて、前髮が垂れ下がり子供っぽい雰囲気に見えるけれど、決して童顔では ない。整っているわけではないが、目もあてられないということもない、そこそこの平均的なニ 十九歳の男の顔。最近食事が不規則で少し瘦せてしまったけれど贫弱というほどでもない、バラ ンスのとれた体…。 平手で経く自分の頰を叩いて、有田は深いため息をついた。 「男好きするような顔だとか、そんな雰囲気が俺にもあるんじやないよな」 眩いた自分が怖くなり、有田は髮の毛をぐしやぐしやにかき乱してバスル丨ムに飛び込んだ。 有田には七歳下の弟が一人いた。いた、と過去形になっているのは、有田の家にはもう弟の籍 がないからだ"去年の夏前『男』と駆け落ちした弟は父親の怒りをかって有田の家から籍を抜か れた。
9恋爱時間
有田は『お兄ちやん、お兄ちやん』と自分の後をついて回っていた歳の離れた弟を、とても可 愛がっていた。弟は特別何かの才能があるとか、容姿が整っているわけでもなく、どこにでもい る、野球と読書が趣味の明るくて優しい男だった。
そんな平凡な弟が大学生になって恋人を作った。同じサ丨クルで一つ年下の男。どちらが先に 相手にひかれたのか、ど、7して付き合うことになったのか詳しいことは有田も知らない"けれど 付き合ううちに弟は年下の男に嫌気がさし、別れ話を切り出したらしかった。
それからが悪夢の始まりだった。年下の男は周りの迷怒も気にせず嫌がる弟を追いかけ回し、 何度も家の前で待ち伏せした。尋常ではない男の行動に不審を持ち、母親が問うと、弟はその男 と付き合っていたと告白した。 有田と両親は弟が付き合っていたのが男だったという事実に大きな銜擎を受けた。 けれど本気で別れたいと言った弟の言葉を信じて、有田も両親も弟を責めず、庇う側についた。 いつまでも自分をあきらめる気配のない男に弟は精神的に追い詰められ、一日中家にこもったま ま外に出なくなった。目に見えて瘦せてゆく弟に、親も有田も困り果てた。見かねた有田が、話 し合いでどうにかなるものならと男を呼び出したけれど、男は有田の話には一切耳を貸さず、弟 は誰のものでもないのに『返せ』と馬鹿の！つ^えみたいに繰り返していた。
最後には『   ***下载/download/otomedream/ダウンロード***   に相談しようか』というところまで話は進んでいたのだ。だけどある日、書き
置き1つ残して弟は家を出ていつた。10 -11緒に生きていく.,
たったのそれだけ。誰と何処に行つたのか一切記されていなかった。有田も両親もパニックに 陥った。男に無理に連れ去られたと思ったからだ。父親は怒りに震えながら男が住んでいるとい うァパ丨トへ乗り込んでぃった。

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